ウォールストリートを占拠せよ・ニューヨーク、ズコッティ公園取材記事 (Article about OWS in 2012 )

この記事は2012年 インパクション183号に掲載されています。

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11月半ば、オキュパイ・ウォールストリート(以下OWS)本拠地であるズコッティ公園で大規模な撤去が行われたものの、その後も全米各地ではOWSに呼応した活動が行われている。
11月2日オークランドのデモをはじめとして、12月にはシアトル、ロサンゼルス、ロングビーチ、サンディエゴなど西海岸の港の一斉占拠が行われた。マースクやCMACGMなど世界の海運コングロマリットのコンテナ船が寄港するこれらの港は、アメリカと環太平洋地域の国際海上貨物輸送を支える重要な拠点である。
アメリカ主要メディアは「占拠によって港内のトラック運転手などは仕事が滞り困惑している」と報道するところもあったが、OWSに寄せられた各港のトラック運転手代表によるオープンレターには、民主的なデモに触発されたというメッセージとともに、港で船荷運搬に携わる彼らの劣悪な職場環境が明らかにされていた。


 会社は彼らを正社員ではなく契約社員として扱い、給料からは燃料費、保険、登録費など、さまざまな名前をつけた経費が差し引かれる。ターミナルや港には運転手用のトイレがなく、ボトルやビニール袋を運転席に携帯している現状、トイレの設置を求めて運動をした者は解雇されてしまった。会社の強要する無理な節約が職場の安全を損ねており、欠陥機器、記録の改ざん、検査漏れを警告しようものなら、解雇か、二度と同じ仕事に就けなくなるという。組合どころか、上司に直接合うことも許されない。プロの運送業者として誇りを持ちながらも、会社からの奴隷のような扱いに日々屈辱を感じさせられると訴えている。


 ロサンゼルス港とロングビーチ港は全米屈指の貨物取引量を誇るターミナルで、アジアからの物資が全米へ向けて輸送される海運と陸運の中継地点である。周辺には高速道路が走り、南カリフォルニアの公害の約三〇%は港のトラックの排気ガスによるものだ。特にロングビーチ南カリフォルニアの一二の地域の中でもディーゼルの燃焼によって排出される元素状炭素のレベルがもっとも高く、子供たちの多くがぜんそくを発症している。 
12月の港占拠で「沿岸のウォール街」の1%としてデモ参加者がターゲットとしたのはEGT(穀物輸出ターミナル)とゴールドマンサックスである。ゴールドマンサックスは全米最大のコンテナターミナル運営会社SSAマリーンの親会社であるカリックス社に出資し、ワシントン州ロングビューにあるEGTは巨大総合穀物会社のバンジ(Bunge Limited)、韓国の海運会社STXパン・オーシャンが所有、運営には日本の伊藤忠商事も参加している。EGTに反対する運動は港湾労働者で組織された国際港湾倉庫労働組合(ILWU)によって以前から行われていたが、港の占拠が行われた日、これに呼応する形で日本でも伊藤忠商事の本社前で抗議行動が行われた。彼らは伊藤忠商事とTPPの関係も指摘している。


 アメリカでいち納税者として生活して五年。風邪で一回通院するだけで二〇〇ドル近くかかる高額な医療費。さまざまな制限がある複雑極まりない民間保険システムなど、お金がなければ健康維持もできない仕組みに疑問を感じる中、二年前に工場制畜産のリサーチをはじめるようになり、利潤のみを追求した大量消費型巨大システムの一部にすぎない自分の生活が見えてきた。 

 2009年、アイオワ州の卵工場に潜入した活動家が録画した、生きたまま肉挽き器にかけられるヒヨコの映像が衝撃をよんだことがある。卵を産まず、肉として売るにも実益にならない雄のヒヨコは産まれてすぐ肉挽き器ですり潰され、その肉はドッグフードか肥料になる。家畜へのこうした残酷な扱いは食肉や乳製品用の動物にも同様に
行われている。毎日の消費生活で、自分で選び購入する商品がどんな過程を経ているのか、わたしたちは知らない。 

 食肉を加工する工場で働くのは働けるビザを持たない南米からの不法移民である。ニューヨークでもレストランの裏方では南米出身のヒスパニックが多く働いている。彼らの中には州の最低時給以下で働かされている者もいる。

 

 オークランドで大規模なデモが敢行された11月2日、ウォール街証券取引所の前では退役軍人たちによる行進が行われた。彼らは帰還後、戦場のPTSTを抱えたまま普通の生活に放り出され、健康保険や学費扶助など、入隊時に約束されていたはずの退役軍人局からのサポートも十分に受けられない。社会復帰できずにホームレスになる帰還兵も少なくない。リクルートセンターは街のいたるところにあり、高校を卒業した若者は学費や健康保険のために軍隊に入る。「国へ奉仕は、相応の恩恵を生む」という考え方の裏には、お金もなく仕事もない人たちは軍に入らなければ最低限の生活も保障されないという現実が隠れている。


 急速な近代化と経済発展を経て、人類が歩んできたどの時代よりも豊かな生活を謳歌しているはずのわたしたちは、いま極めて不平等で狂暴なシステムの中に生かされている。グローバル化の名の下に瞬く間に世界を巻き込んだそのシステムは神がかり的に巨大で、その姿をとらえるのが難しい。
 フェイスブック上に、第二次世界大戦に従軍した若者とウォール街でデモをする若者の写真を並べ、「1944年、20歳の若者は全てを捧げていた。2011年、若者は全てを欲しがっている」と皮肉るポストを見たことがある。その下には「デモに参加者ももっと努力をすればそれ相応の仕事につけるはず」というコメントが書かれてあった。 だが、問題の表面だけを取って見ることほど危険なことはない。いまわたし達が思想や将来の夢に至るまで丸ごと組み込まれているシステムは、その部品である人間を思考停止させることでより巨大に膨れていく仕組みだからだ。
 これらを紐解くと、様々な矛盾の要因が見えてくる。なぜヒヨコは生きたまま肉挽き器にかけられるのか、なぜ休む暇もなく働いて必要最低限の保障も確保されないのか、なぜ、ひとたび事故が起こればそこに住む生物からなにもかもを永久に奪う危険のある発電所が稼動し続けるのか。
 利益と効率のみを優先させた仕組みの中では、人間だけでなく動物も植物も自然なままの姿で生きることも許されない。

 アメリカでは高額な医療費それだけでも中間層が貧困層に容易く転落する用意ができているが、生活保障と月々の支払いのために身を粉にして働き、苛立ちを募らせながらも、ホリデーにはショッピングに出て当たり前のように消費活動を続ける。クリスマスシーズンが終わると、ニューヨークの道端にはクリスマスツリーに使われた生木がゴミと一緒転がっている。


 撤去前、ズゴッティ公園には「花を踏まないでください」というデモ参加者による手づくりの注意書きがあった。彼らは花を踏まないのだ。
 「ストリートで会いましょう」Re-occupy(再占拠)として行われた12月18日のデモの呼びかけにはそんなメッセージが元気よく掲げられていた。同じ日には「移民も99%の一部」として、ヒスパニックを中心にデモも行われている。インターネットを駆使し、全米、全世界の支持者と繋がりながら、彼らはface to face(直に向かい合うこと)を忘れない。