サテライツ農場 鹿児島県曽於市

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サテライツという農場を訪ねてきました。

ここは鶏たちの終生飼育を行う数少ない採卵養鶏場です。

鹿児島市から日豊本線桜島をぐるっとまわって山深い霧島連峰を抜けた、鹿児島県曽於市にサテライツはあります。


敷地に入ると、駐車している車の横でヤギが草を食んでおり、その奥で鶏が歩きまわっています。

サテライツの代表・川原嵩信さんは「人も鶏も無理をしない養鶏」をモットーに、少数羽の放し飼い飼育「庭先養鶏」を行っておられます。

庭先に放し飼いにされた鶏たちは、好きなときに好きな場所で、餌をつついたり草陰で羽を休めたりしています。

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何よりもすごいのは、サテライツでは鶏たちが本来の寿命まで生きることができることです。

鶏の寿命は本来10年以上あります。しかし日本の現在の採卵養鶏では、生産効率から鶏のほとんどが2年弱で廃鶏として屠殺されてしまうのが現状です。

バタリーケージという飼育方法で、一羽につきiPad一枚ぶんのスペースしかないケージの中で、鶏たちは土に触れることも太陽を目にすることもない、羽すらを広げることもできないまま、一生を過ごすことを強要され続けています。

ヨーロッパではすでに禁止されている飼育法ですが、日本の採卵養鶏場の約95%はこの方法で鶏を飼育しています。

 

2020年の東京オリンピックに参加する多数の選手たちが、東京オリンピックパラリンピックで提供される畜産物について、世界が受け入れるアニマルウェルフェアのクオリティに達していないとして、世界的なアニマルウェルフェアの基準を満たした畜産物(鶏は100%ケージフリー、豚は100%妊娠豚用の飼育柵を使わない)を提供するよう、東京都知事東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会へ嘆願する声明が発表されています。

 

このような家畜の生態を無視した飼育方法は、戦後の高度経済成長期に、大量生産、効率重視の中で広まりました。
現在スーパーなどに並んでいる卵は安いもので1パック100円(8.3円/1個)です。
「いただきます」という言葉にこめられているように、わたしたち日本人は食物としていただく命あるものへの感謝や敬いの精神を持っていますが、これらを見ると、その精神からは大きくかけ離れてしまっていることがわかります。

 

卵は、母鶏の血肉から生まれるものです。
昔は卵が貴重だったという話を聞くことがあります。江戸時代の卵の単価は約400円/1個と言われています。このことからもわかるように、卵は本来そう簡単に手に入れられるものではないのです。

一度にできるだけ大量に安く生産することが当たり前になった現代においては、本来の価値が極度に軽くなってしまっているのではないかと思います。

 

サテライツでは庭や家の周りを鶏たちが走りまわったり、草陰で休んだり砂浴びをしたりしています。
雄雄しく力強いオスの、黒光りするまっすぐな尾。やわらかくふんわりとした羽毛のメス。
彼ら本来の美しさが保たれています。
まるで伊藤若冲日本画から抜け出してきたような完璧な姿に圧倒されました。

あまりにも鮮麗で美しすぎる若冲の絵にはいくらか誇張があるのでは?と常々思っていたのですが、サテライツで彼らの本当の姿を目にし、若冲の絵は誇張ではなく彼らの姿をそのまま写していたことを思い知りました。

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何より驚いたのが、彼らの太くてたくましい足です。
鋭い爪でしっかりと地面を掴んで歩いています。

バタリー飼育という飼育方法がいかに異常な状態であるかが実感としてわかりました。
えさとみると一目散に駆け寄って来て、地面をつつく振動が隣に立つ私の足にも伝わってきます。

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砂浴びや日光浴をするメスたちのそばで、オスはできるだけ遠くまで見ようとするように背を伸ばし、外敵から彼女らを守るための監視を怠りません。
わたしが近づくと、少しずつ近づいて様子を伺っているのがわかりました。
鶏の群れはボスを頂点として30-60羽くらいがいちばん落ち着くそうです。

 

サテライツでは、自社の敷地だけではなく、近隣の農家さんにも鶏たちを委託して育ててもらう委託型養鶏も行っています。 

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委託農家さん宅での鶏たち

また、鹿児島県曽於市では、関西大学と共同で「持続可能な開発目標(Sustanable Development Goal)」としてSUKIMAプロジェクトという活動をスタートさせています。
「持続可能な開発目標」は、2015年、国連加盟国150カ国以上の合意をもとに始まった世界的なプロジェクトで、持続可能な消費と生産、教育、貧困の解消など様々な角度から取り組みをおこなっていくというものです。
それをお手本に、市の持続的な発展のため、地元の企業と住民とがお互いにパートナーシップを結び、市の課題を協力して取り組み、発展させていこうというプロジェクトです。

養鶏業のサテライツをはじめ、さまざまな農家や企業が参加しています。

 

鶏たちの本来の生態を尊重したサテライツでの飼育法を見ることで、「命を戴く」という言葉の重みを、もうひと掘りして考えるきっかけになればと思います。